代ゼミとバレンタインとの相関関係に関する考察 (2)

私は冷静に、どうすればこのプロジェクトが終わるのか考えた。まず、開発環境。仕事道具が悪いといい仕事はできない。会社から自分のパソコンを持ち込むことにした。作業場のノートパソコンは386マシン。私のは486のデスクトップマシンだ。車で言えば10年落ちの軽トラとスカイラインGTR Vスペックくらいの差がある。

会社から本体とモニターを作業場に持ち込む。全員が初めて見る486マシンに「うおー」と唸った。(そこまですごいものでもないが…)実際には、そこまでやる自分に周囲は引いていたと思う。それで皆と打ち解けたわけではなかったからだ。ただでさえ、火を噴いているプロジェクトだ。よそ者を受け入れる気持ちの余裕など、誰も持っていない。

一週間後、作業場に行くとみんなが486マシンに群がっていた。「おはようございます。」と声をかけると、全員が一斉に私を見た。なにごとか?リーダーが言った。

「いいもの持ってますねー。いいパソコン持っている人は違うな〜」

なんのことだ、と思いパソコンに近づくと…ぅぁっ!私の秘蔵コレクションが!

当時、ネットからエロ画像をダウンロードするのは、素人には難しかった。インターネットの無い時代。アメリカのパソコン通信に入り、文字の羅列を素早くダウンロードし、専用ソフトで画像データに復号する。しかし、この画像は256色だったのでパソコンより強力なワークステーションでしか見ることができなかった。ところが、日本には画像を16色にキレイに減色して、パソコンで表示できるようにするフリーソフトがあり、そうやってコツコツ集めた秘蔵コレクション、言い換えると無修正エロ画像を、私は自分のパソコンのスクリーンセーバーに密かにセットしていたのを忘れていたのだった。

その日から私は職場でヒーローとなった。みんなとの壁は無くなり、気軽に声をかけられらるようになり、仕事が段違いにやり易くなった。

それでもシステム開発は終わらない。喫煙コーナーでタバコを吸っていると、NECのお偉方が声をかけてくる。進捗状況の細かな報告がA社から無いらしい。当然だろう。こんな現実を報告できるわけがない。

作業場からは遅くても午前2時には上がるように言われていた。なぜなら代ゼミ本校は午前2時から午前7時半までは、すべての出入口がロックされ、外部から隔離されるためだった。だが、このままでは月末のシステム稼動に間に合わない。ついに徹夜が許可された。

初日のこと、午前一時半に補給部隊が結成され、近所のローソンに買い出しに行く。食料だけではない。飲料も必要だ。明朝7時半まで、一切の補給は受けられない。

補給部隊が戻って来た。買いすぎじゃないか?皆が思った。しかし3時間後にはその判断が間違っていたことを思い知る。足らない。全然足らない。5時には飲料も尽きた。まだ2時間半もある。長い。喉が渇いた。腹が減った。タバコで空腹と渇きを紛らわす。逆効果だ。時間よ止まれ!じゃない、進め〜!まるで耳なし芳一の世界だ。

ようやく朝が来た。偽物ではない、本当の朝だ。新しい朝だ。ラジオ体操だ。我々は解放された。皆のリクエストを携えて補給部隊がローソンに向かう。助かった。こんなにも水分が大切だなんて、何年も思ったことがなかった。コンビニの重要性を体感できた。よし、これで稼働日までにシステムを完成させるぞ!と息巻いた矢先に、新たな問題が発生した。

そもそもスワヒリ語しかできない人間にスペイン語、ではなく、COBOLのプログラマにC言語のプログラム作れというのがおかしいわけで、当然、プログラミングができないからテストに回される。テストしようにも仕様がわからないから混乱する。彼らは若くてスキルも高いわけではなかったので、どうしたらいいのかわからないのだ。(私も若かったけど)

若い彼らはリーダーから指示されたことが理解できなかったり、目的は理解できても、どうやればできるのかがわからなかったりで、仕事が進まない。誰からもアドバイスをもらえずに上長から怒鳴られるだけ。皆がどんどん疲弊していくのが見て取れた。
(つづく)