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アジに思う
静岡県沼津市。駿河湾に面するこの地は魚介が豊富だ。地魚と言えば、しらすに桜エビ、キンメダイに真鯛などなどいろいろあるが、伊豆の隣でもある沼津では、なんと言ってもアジである。
漢字で書けば鯵。
私は基本的に青魚が好きだ。身近な干物と言えば秋刀魚にアジにサバ、それにシャケ。ところが、沖縄では秋刀魚は開きですら生しか売っていないし、アジの干物もたまにしか手に入らないので、メインはサバかシャケになる。干物にはしないが、イワシも青魚。生でも酢締めでも焼いても美味い。
ホッケも青魚であるが、子どもの頃に北海道出身の母が、実家から送られてきた真ホッケの干物を食卓に出していた。そのせいか、大人になってからだんだん食べなくなり、今ではほぼ口にすることがない。
アジにしても、若い頃は身近過ぎて、ありがたみを感じたことがなかった。若い頃、伊豆に行ってまで食べたい魚に、アジは含まれていなかった。普段食べられない魚が食べたかったのだ。それが、今やアジですらなかなか食べる機会がない。
沖縄でアジの刺身やたたきは売っているが、刺身用のアジがまるのまま売っているのを見たことがない。自分でさばくか、魚屋に三枚におろしてもらって、できれば自宅で軽く酢締めにして食べたいのだが、それすらめったにかなわぬ夢だ。出張先で入手したアジでなければ実現できない一品なのだ。
海鮮フライ
さらに言えば、子どもの頃はあまり海鮮物のフライが好きではなかった。エビフライをありがたいとは思わなかったし、カキフライは食べたことがない。今思えば、好き嫌いはだめだと、私をきつくしつけた両親はかなりの偏食で、香りのあるものや貝類は食卓にあまり並ばなかった。あさり、しじみ、ハマグリ、たまにさざえ。以上である。牡蠣や鮑が我が家の食卓に上ることはなかった。
中学生の頃まで牡蠣の存在を知らず、スーパーで買い物に行くたびに見る「カキフライ」の文字に、果物フライなのかあ、おいしいのかな?と漫然と不安を抱いていた。母が好きな数少ない魚はシャケとホッケだった。シャケは今でも好きだが、サーモンフライは好きになれない。
大学に入り、家を出てから様々なものを食べた。カキフライ、ししゃもフライ、アジフライにイカリングフライ、海苔弁の白身魚フライにマクドナルドのフィレオフィッシュ。魚介系のフライでも美味しいものがたくさんあることを知った。それでもアジフライを自分から食べようとすることはなかった。
アジフライが食べたい
何年前のことだろうか。島耕作シリーズを読んでいるときに、万亀会長だか社長が、料亭でわざわざアジフライを揚げさせて美味そうに食べているシーンがあった。
なにやら無性にアジフライが食べたくなった私は、数日のうちにアジを買ってきて、三枚におろしてフライにした記憶がある。あれ以来、なにかとアジフライが食べたくなる。こんなにも美味いものだったのか。
そもそも昔は足の落ちた素材の味を買ってごまかすために揚げていたと、バイト先の職人に教えてもらったことがある。温かいうちは食えるんだが、冷めると食えたものじゃないから、すぐに分かるよと話していた。
きっと昔のアジフライは冷凍ものだったり、鮮度の落ちた素材を使っていたのだろうか。新鮮なアジのフライは身がふわふわで、臭みもなく、魚の旨みが濃縮されている。辛口のソースでもよし、酸味の効いたタルタルでもよし。
その後は伊豆などアジの産地に行くと、必ずアジフライを食べるようになった。
生シラス
沼津で食べた生シラスも旨かったな。
50年ほど生きていれば、いろんな経験をするものだ。さほど破天荒な生き様だとは思わないのだが、あまり他人が知らないことを見知ってきたらしい。そんな私の人生の切れ端でも誰かの役に立つかもしれないなら、記録として残す価値はあるかもしれないなどと考えながらブログを更新している。(詳しく読む…)