会社の女性社員で、彼氏と同棲している先輩がいる。会社では私が上司だが、地元沖縄では先輩である。私をはじめ、社内では「ねーさん」と読んでいる。どちらかというと「姐さん」と書いた方がしっくりくるような気がしないでもないが、まあ「ねーさん」なのである。
今年初めに東京に転居し、結婚を視野に一緒に住み始めた。その彼氏と喧嘩が絶えないという。かねてよりその理由を聞いてはいたのだが、昨晩の食事会に会社の仲間の到着が遅れたために、しばし私と先輩の二人で食事をしていたので、改めて喧嘩について尋ねてみた。
相変わらず、だそうである。
なにが原因なのか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「ごはんがおいしくない、不味いって言うのよね…」
ねーさんはバリバリのキャリアウーマンだった。若い頃に立ち上げた会社を沖縄で三十年近く経営してきたが、それを他人に譲って上京した。子供のころは両親が商売をしていた上に、兄弟が多かったので、家にはお手伝いさんがいて、食事は大皿料理が中心だったそうである。
おまけにねーさんは激しい偏食家でもある。
海苔は食べられるが刻み海苔は食べられないとか、鶏肉はだめだがササミはいけるとか、生魚が臭くて食べられないとか、ネギもダメだったような気がした。それでよく子供を育てられたね、と驚いたら「給食があるから、大丈夫。」と言い切っていた。すでに成人した子供たちは好き嫌いがないと言うのである。
対して彼氏は内地の育ち。ねーさん曰く、
「沖縄育ちで料理をしない私が、内地のおふくろの味なんてわかるわけないでしょう?!」
ねーさんの唯一の得意料理であるチャンプルーを彼氏は食べない。嫌いなんだそうである。
ここまで食が合わなければ、ほぼ外国人と変わらない。いや、それ以上かもしれない。私の前妻は中国人だが、朝は和食派だったし、嫌いな食材は豚肉くらいだ。豚肉を食べない中国人ってどうかと思ったが、小籠包や餃子など、皮で包まれているものは食べていた。そういえば、義弟の妻は北京ダックが食べられなかった。「愛鴨連盟に所属しているから。」といつも笑っていたが、なぜ食べられないのか、理由は知らない。
妻は好き嫌いがない。イチゴとナーベラー(へちま)が嫌いだと言っていたが、イチゴはたまたま機嫌が悪くて拒否したのを、意地を張って嫌いだと言い続けていただけだし、ナーベラーは私も好んで食べるわけではない。農協に行けば山積みで売られているが、もう何年も買った覚えがない。味噌汁に入れるとまあまあイケるのだが、けいたまが食べられる味ではない。
実はナーベラーは、蛤と一緒に調理すると死に美味いことが判明した。
私は好きではないが、世の中にはクックパッド等のサイトもある。参考にしてみてはと、ねーさんに勧めてみたが、あれは私には分かりづらいの、とぼやくのだった。ならばと、けいたま日記のおうちごはんを見せたところ、これなら私にもわかりやすいと喜んでくれた。鍋焼きうどん、肉豆腐に煮物。こんなのが作りたかったそうである。
ねーさんの家庭に平穏が訪れることを願うばかりである。
50年ほど生きていれば、いろんな経験をするものだ。さほど破天荒な生き様だとは思わないのだが、あまり他人が知らないことを見知ってきたらしい。そんな私の人生の切れ端でも誰かの役に立つかもしれないなら、記録として残す価値はあるかもしれないなどと考えながらブログを更新している。(詳しく読む…)