俺の妻の話 第2話 シフトと休日

投稿者: | 2月 16, 2021

社長からのメッセージ

「人手が足りません。」

妻から見せられたLINEの画面には一言だけ記されていた。妻がつぶやく。

「休みを伝えたのに、シフトを見たら出勤になっている。」

私が久々に出張することになり、妻が来月のシフトで1日だけ休みを希望したのだが、発表されたシフト表では見事に無視されていた。

ここの社長は常に自分ファーストである。従業員の都合などお構いなしだ。

まだ見ぬ雇用契約書

妻はとある惣菜店で調理の仕事をしている。入社して半年が経つが、いまだ雇用契約が交わされていない。

就職はハローワークからの紹介だったが、面接後も雇用条件が示されないまま働きだした。給与も待遇も分からない。分かっているのは正社員であることと、勤務時間のみだ。

最初の月の給与は手取り額が異常に少なかった、いまだに給与明細が渡されないので、確かめようがない。

しかも残業もついていない。シフト制の8時間労働という条件だったが、実際には毎日1~2時間の残業があった。

そもそも正社員は誰も残業手当をもらっていないらしい。それがここの流儀なのだ。正社員は技術を覚えるために働いているのだから、会社に尽くせと言うことらしい。

入社して三か月後にようやく雇用契約書が提示された。なんでも初めて作成したらしい。

どういう会社だ?

しかし内容に不備があったため、修正を求めて突き返した。いまだ雇用契約書は届かない。

ゲスな経営者

入社して2か月ほどは休日が固定であった。店の定休日が休みと重なっていた。しかし売上減に悩む社長は定休日を廃止した。社員のシフトはぐちゃぐちゃになった。休みはバラバラ。

シフトは直前にならないと発表されないために、妻は病院に行く予定すら立てられなくなった。

おまけに法定労働時間が順守されない。中小企業でも2020年4月からは週40時間が法律で義務付けられている。だがここの社長は「休みは月に8日」と譲らない。

違法である認識すらない。

これではとてもやっていけないと疲弊した妻は、正社員からパートへと雇用契約の変更を社長に伝えた。パートならば休みの希望が出せるので、計画が立てられると思ったのだ。

しかし社長からは年末年始は人手が足らないので、パートになるのは2月からにしてくれと依頼され、妻は承諾した。有難いこと(?)に残業もつけると社長が言った。

タダ働きという違法行為を是正することで恩を着せるとは、なんてゲスな野郎だ。

ところが年が明けると社長は妻に「やっぱりパート契約にして」と言い出した。正社員だと年末年始の休みの分を給料から差っ引けないが、パートならば労働時間が少ない分、支払いが減るからだとのたまった。

マジでゲスだ。

ここの会社ではパートは労働時間に関係なく社会保険には未加入だという。12月には社員でいてくれと伝えたくせに1月の給料日を前にしてパートにすると一方的に言い放った。

社会保険はどうなる?

給与明細からは社会保険がばっちり引かれていた。経理担当者は給与支払いの手続き後に、経営者からパートになるから社会保険でなくなると告げられたらしい。

おまけに資格喪失届が来たのは2月に入ってからだ。たまたま病院の世話になってなかったのでよかったのだが、12月に社会保険を使っていたら、面倒なことになっていたのだ。

社員のことなど少しも考えていない。頭の中は資金繰りでいっぱいなのだ。自分さえよければ、それでいいんだ。

ガチでゲスだ。

法律は無力だ

社長が残業代を払うと宣言したのちの最初の給与。明細書を見たが、計算がおかしい。法律では週40時間を超えた労働については25%のプレミアムが義務付けられている。だが、逆算した残業代は法定最低賃金に残業時間を掛けたものであった。

このゲス野郎!

残業代不払いについて弁護士に相談したが、できることはあまりなかった。退職後に請求する方法もあるが時効は2年だ。おまけに費用も掛かる。

昨年、労働基準監督署が指導に職場を訪れたらしい。退職者が監督署に行って惨状を伝えたようだ。

妻によれば、監督署の職員は社長にこう言ったらしい。

「本来であれば労働時間や賃金など、きちんと法律を守ってもらいたいのだが、厳しく指導すれば県内の企業はほとんどが対象となり、経済活動が破綻するので、指導できないのが実情だ。せめて労働者から訴えられないように、うまく人間関係を築いてください。」

監督署がブラック企業にお墨付きを与えたようなものだ。

沖縄の経済活動は労働者の犠牲の上に成り立っている。特に沖縄の女性は強い。我慢強いし抗議はしない。男性や職場に尽くす傾向がある。

まさに「うちなーいなぐ(沖縄女)」なのである。

この南国気質を悪用している企業が多数だ。妻の以前の職場でも同じ傾向がみられた。

死にゲス!(「死に」は沖縄では「めちゃくちゃ」「すんごい」という意味)

遵守している法律もある

妻の職場では社員の給与もパートの時給も最低賃金から計算しているので、同一労働同一賃金だけは実現されているのが素晴らしい。

だが一部のスタッフは少し時給が高めらしい。少しは気づかいもあるようだ。これ以上、スタッフが辞めれば店が維持できなくなるので、背に腹は代えられないのだろう。

だが、スタッフが辞めなくても、職場の空気が悪くなれば、店は廃れるというものだ。

せめてあと半年は妻の職場がつぶれないことを祈るばかりである。

(※この話は実話をもとにしたフィクションです)