沖縄では締めのステーキは有名だ。双璧は二つ。ジャッキーか88(はちはち)。そこに割り込んできた新興勢力がサウザンドステーキだ。さらに今、新星が現れた。
ひかるステーキ。
馴染みのキャバ嬢から話は聞いていた。美味いらしい。そして今日、取引先に誘われてここに来た。和牛が食えると言う。
ほう。千円で和牛。本当だろうか?
松山交差点からりゅうせき通りに入り、二本目の交差点を右に曲がる。数軒先のビル…
あれ?
これって、スイートルームセイラのあるビルではないか?いわゆるショーパブだ。
強烈な思い出がフラッシュバックする。
平成25年の年の瀬だったろうか。たまたまアラフォーバツゼロ彼氏なし、バリバリのキャリアウーマンの女性ら三人とイタ飯屋で食事をすることになった。この年、私はとある経済団体で女性委員長のもと、女房役である運営幹事を務めていた。委員長は数軒の飲食店を経営していた。三人のうち、一人は委員長、あとの二人は委員長の友人だった。
話が盛り上がり、二軒目に行くことになったが、すでに行く店が決まっていると言う。連れてこられたのがここ、セイラ。ニューハーフのショーはなかなかのものだった。この年ほどゲイバーやニューハーフの店に行ったことはない。男性のキャバクラに付き合わされる女性の気持ちが、少しわかったような気がしたくらいだ。
女性三人ともかなり酒が入っている。ショーが終わると、おもむろに委員長が私に言った。
「あんた、ホモでしょ?」
はあ?何を言いだすんだか。だいぶ酔ってるな。なんで私がホモなんだ?
「だって、これだけ二人でいる時間があるのに、私のこと、一度も口説いたことがないじゃない。」
はあ?どんな思考回路だ?あんたを口説かないとホモになるのなら、この団体の男性の大半はホモになるぞ。
「ねえ、この三人の中で付き合うとしたら、誰がいい?」
やめてくれ。拷問だ。女性の嫉妬心を煽るような質問には答えたくない。その上、私の好みは若い娘だなんて言ったら、それこそ何をされるか分からない。ここは穏便に済まそう。
「いやあ、三人とも素敵だから、私じゃなくてもいいんじゃないかな…」
「ほら!やっぱり、男がいいんだ。」
意味が分からん。力説してやる。
「オレはノンケだ。」
そこにショーを終えたニューハーフが話に加わってきた。
「やっぱり、ノンケなんて言葉知ってるから、あなた、こっち側の人でしょ?」
話をややこしくするな、このボケ!俺はどノーマルだ、若い娘が好きなんだ。アラフォーとかニューハーフとかはアウトオブ眼中なんだよ!と言いたいが、ここは我慢だ。
「ほーら、彼女(ニューハーフ)もそう言ってるでしょ?カミングアウトしなさいよ。」
委員長、目が座ってるよ。そりゃ、カミングアウトしたいけど、したら身に危険が及ぶでしょう。ここは黙って耐えるしかない。
「ホーモ、ホーモ!」
なんのコールだ。何だこいつらは?頭がおかしくなりそうだ。
言い訳を作って店を出た。頭がクラクラする。ああ、どこかに若い娘はいないか?誰でもいい、俺と話をしてくれ!ふらふら歩いていると、同じ委員会のメンバーが道に立っていた。ああ、ここは彼の店の前じゃないか。彼は那覇市内で数軒のキャバクラを経営していた。私は彼に声をかけた。
「一人でも入れるかな?」
「一人で来るなんて珍しいですね。誰か指名いますか?」
彼が私に尋ねた。
「誰でもいいから、若い女性と会話させてくれ。気が狂いそうだ!」
一瞬、彼は不思議そうな顔をしたが、私が一人で店に来るなんて、よほどのことがあったのかと、黙って店内に案内してくれた。
そうして私は魔界から日常に還ることができたのだった。
50年ほど生きていれば、いろんな経験をするものだ。さほど破天荒な生き様だとは思わないのだが、あまり他人が知らないことを見知ってきたらしい。そんな私の人生の切れ端でも誰かの役に立つかもしれないなら、記録として残す価値はあるかもしれないなどと考えながらブログを更新している。(詳しく読む…)