武蔵境の思い出 ~大雨の是政橋~

投稿者: | 7月 11, 2020

縁あって、三十年ぶりに武蔵境を訪れた。学生時代は大学が東小金井にあったので、バイトやデートはもっぱら吉祥寺に行った。軽音楽部でバンドもしていたから、スタジオも吉祥寺で借りることが多かった。飲みに行くのは東小金井の駅前か武蔵小金井駅のほうだった。

つまり、武蔵境はぜんぜん縁がなかったのだ。せいぜい西武多摩川線に乗るくらいか。それもめったにない。競艇場に行くためだけの路線だ。この辺りは競馬場にボートレース、少し離れているが、調布には京王閣の競輪場がある。まさにギャンブルエリアだ。

武蔵境ではないが、西武多摩川線の終点、是政駅付近にある、多摩川を渡る「是政橋」には忘れることのできない思い出がある。今では立派なつり橋だが、私が学生の頃は片道一車線のコンクリート橋であった。夏休みだっただろうか、大雨の夜に車を走らせていた。激しい雨で前もあまり見えない中、是政橋にさしかかった。そのまま橋を進んでいたときに異常が起きた。 急にふわっとアクセルが軽くなり、エンジンの回転数が上がった。車の速度は変わらない。まるでスケートを滑るかのような挙動を示したのである。

ハイドロプレーニング現象。

別名、水膜現象。路面とタイヤの間に水が入り込み、車が水の上をすべる現象のことだ。免許取得時に学科で習った覚えがある。速度が落ちるまで、クラッチを踏んで、アクセルもブレーキも踏まず、ハンドルも動かさないでいた。しばらくすると、タイヤが路面をかむのがわかった。制動を取り戻したのだ。

怖かったが、案外冷静な自分にも驚いた。それから二度と経験したことがないが、以後、雨が激しく振っているときは、スピードを出さないようにしている。