縁あって、三十年ぶりに武蔵境を訪れた。学生時代は大学が東小金井にあったので、バイトやデートはもっぱら吉祥寺に行った。軽音楽部でバンドもしていたから、スタジオも吉祥寺で借りることが多かった。飲みに行くのは東小金井の駅前か武蔵小金井駅のほうだった。
つまり、武蔵境はぜんぜん縁がなかったのだ。せいぜい西武多摩川線に乗るくらいか。それもめったにない。競艇場に行くためだけの路線だ。この辺りは競馬場にボートレース、少し離れているが、調布には京王閣の競輪場がある。まさにギャンブルエリアだ。
武蔵境ではないが、西武多摩川線の終点、是政駅付近にある、多摩川を渡る「是政橋」には忘れることのできない思い出がある。今では立派なつり橋だが、私が学生の頃は片道一車線のコンクリート橋であった。夏休みだっただろうか、大雨の夜に車を走らせていた。激しい雨で前もあまり見えない中、是政橋にさしかかった。そのまま橋を進んでいたときに異常が起きた。 急にふわっとアクセルが軽くなり、エンジンの回転数が上がった。車の速度は変わらない。まるでスケートを滑るかのような挙動を示したのである。
ハイドロプレーニング現象。
別名、水膜現象。路面とタイヤの間に水が入り込み、車が水の上をすべる現象のことだ。免許取得時に学科で習った覚えがある。速度が落ちるまで、クラッチを踏んで、アクセルもブレーキも踏まず、ハンドルも動かさないでいた。しばらくすると、タイヤが路面をかむのがわかった。制動を取り戻したのだ。
怖かったが、案外冷静な自分にも驚いた。それから二度と経験したことがないが、以後、雨が激しく振っているときは、スピードを出さないようにしている。
50年ほど生きていれば、いろんな経験をするものだ。さほど破天荒な生き様だとは思わないのだが、あまり他人が知らないことを見知ってきたらしい。そんな私の人生の切れ端でも誰かの役に立つかもしれないなら、記録として残す価値はあるかもしれないなどと考えながらブログを更新している。(詳しく読む…)