目玉焼きの黄身 いつつぶす

妻が録画予約しているドラマがあった。なんでも、ショートケーキのイチゴの食べ方が偶然同じだった男女が付き合い始めるが、目玉焼きの食べ方の違いで喧嘩をしてしまう。さらにカレーライスのルーのかけ方で対立する、というドラマらしい。

説明下手の妻にしては話がわかりやすかった。

ちなみに私と妻の目玉焼きの食べ方はほぼ同じである。とは言え、食べ物なんて嗜好品なのだから、正解などある訳がない。本人が美味いと思えば、周囲を不快にさせない範囲であればどうやったって問題ないと思う。

昔のことだが、宮崎緑が朝のニュースに出ていた頃だから、高校生の頃だろう。目玉焼きにかけるのはソースか醤油かでクラスメートと対立した。私は醤油派だ。ソースをかけるやつなど聞いたことがない。どちらが正しいか、ならば他のやつらに聞こうと、何人かに尋ねた。

一人目。

「目玉焼きにかけるのはソース?醤油?」
「ケチャップ」

二人で顔を見合わせる。二択がすんなりと破られた。ケチャップだと?まあいい、次こそ私の正しさが証明されるはずだ。

二人目。

「目玉焼きにかけるのはソース?醤油?」
「マヨネーズ」

アホらしくなって、調査をやめた。

いずれにしろ、日常の大したことがないことでそんなに悩むことなど、私にはないと思っていた。

そう、今の今まで信じて疑わなかった。

ホテルをチェックアウトし、馴染みの(?)イオン千歳店に向かう。物資の調達だ。けいたまの大好きなお魚と、妻の好物の新鮮刺身を入手するのだ。しかし、昨晩飲みすぎたのか、調子がイマイチだ。イオンに着いたらとりあえずトイレに行こう。

パンツを脱いで便器に座る。ホッとした私の目に飛び込んできたのは、パンツのゴム部分に書かれた文字だ。

あれ?

この文字は本来、背中側にあるものだ。見えてはならないものだ。ということは?

立ってみる。

パンツの前後が逆だ。

私はボクサータイプのローライズを愛用している。なので穴がない。ぜんぶ下ろさないと用が足せない。履き心地にも特に違和感はなかった。

どうしよう。

履き替えるべきか、放置でいいのか。トイレ内には着替え用のチェンジングボードはない。靴を履いたまま、スラックスを下ろしてパンツも脱いで履き替えるのは至難の技だ。しかし、前後逆なのは精神的に気持ち悪い。

人は知らなくていいことを知ってしまうと不幸になる時がある。さっきまで堂々と歩いていたのが、ズボンのチャックが開いていたことに気づくと、慌てて閉めてから、そそくさとその場から立ち去りたくなる。美味しいと食べていたものが賞味期限が切れていたことに気づくと…それは私も妻も気にしないや。そして前後逆のパンツは、先ほどまではなんともなかったのに、今ではなんとなく違和感を感じる。

しかし、どこで履き替えろというのだ?この事実を知っているのは私だけだ。外から見えるものでもない。違和感は我慢すれば済む話だ。

そう、私だけが我慢すればすることなのだ。

いや、パンツとは言え、正しく履くのが筋だ。穴が開いていないから大丈夫などというのは屁理屈であり、正当化に他ならない。

詭弁だ。

そんなことを弄するくらいなら、空港でチェンジングボードのあるトイレを探して、パンツを履き直せば済む話だ。分かっている。とは言え、空港で着替えの時間を確保することができるのか?やってみなければわからない。何事もチャレンジだ。人生は試練の連続なのだ。私の脳内で是正派と放置派の激しい議論が飛び交う。

結局、着替える時間も場所もないままに、沖縄に帰ったのだった。

やっぱり、昨晩は飲みすぎたんだよ。